相続ブログ

2015年3月10日 火曜日

相続放棄について(その3)

既に述べたとおり,相続放棄の制度は,その手続をとることができる期間や条件を設けることで,相続人の利益と,被相続人の債権者の利益との調整を図っています。

相続放棄の手続をとることができる条件で大事なのは,相続人が『単純承認』していないことです。
『単純承認』とは,相続人が被相続人の財産を処分する行為をいい,相続人が被相続人の貯金を引き出すことや被相続人の不動産の名義を相続人に変更する行為などがあたります。
つまり,「相続放棄」は"プラスの財産を相続しない代わりに,マイナスの財産も相続しない"という制度であり,相続人が,プラスの財産だけを相続しておいて,マイナスの財産を相続しないことはできないのです。

また,気をつけなければならないのが,『単純承認』には,被相続人のプラスの財産を使うことだけでなく,被相続人の借金の1部を返済することも『単純承認』にあたってしまいます。
よくある例としては,相続人が自分の財産で被相続人の借金(入院費用や滞納家賃)を支払ったというケースがあります。厳密にいえば,これらの行為は『単純承認』にあたるので,被相続人の借金の有無が分からない場合には行うべきではありません。

それでは,"相続人が被相続人の財産を使ってしまった"後(『単純承認』の後),このことを隠して相続放棄した場合はどうなるでしょうか。

相続放棄は,相続人らが家庭裁判所に申立て,これが受理されたときに効力が発生します。もっとも,裁判所は,申立書の記載から相続放棄の要件をみたすかどうか(『熟慮期間』内か,『単純承認』をしてないかなど)だけチェックして受理しますので,申立書の記載内容が正しいか否かは調査しません。
そのため,仮に『単純承認』の事実があっても,申立書にそのことを書かなければ,相続放棄は受理され,その効力が発生することになります。

しかし,そのような場合であっても,被相続人の債権者が,相続放棄した相続人に対し,「相続人が『単純承認』していたから相続放棄は無効である」と主張して,相続人に借金の返済を求める裁判を起こすことは可能ですので,『単純承認』の事実があったかどうかは,その裁判の中で判断されることになります。
この裁判では,債権者側が,"相続人が被相続人の財産を使ってしまったこと"を主張立証しなくてはならないため(これが結構大変です),実務では,多少"相続人が被相続人の財産を使ってしまった"場合であっても,債権者から裁判を提起され,「相続放棄」の有効性が争われることは少ないといえます。
とはいえ,その危険はゼロではありませんので,被相続人が借金を負っている可能性が少しでもあるときは,早めに専門家に相談したほうがよいでしょう。

なお,相続放棄には,他にも『限定承認』という制度もあります。
『限定承認』は,相続人が被相続人の財産を相続するものの,被相続人の借金の金額を調査し,仮に借金の方が多い場合には,相続したプラスの財産の範囲内でその借金を支払う責任を負うという制度です。
この制度は,被相続人のプラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いかが判別つかないときのための制度ですが,相続人全員で行う必要があること,相続放棄と同じ3か月の『熟慮期間』内に行う必要があること,『限定承認』後の手続が煩雑であることなどから,実務上,あまり利用されておりません。
また,もし被相続人のプラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いか判別がつかないときには,前回述べたように,『熟慮期間』を伸ばしてもらい,その間に調査を行うとの対応をとることで大抵は対応できるからです。
そのため,『限定承認』は,家族で住んでいた土地建物など,なるべく相続したい財産があるものの,借金の金額はよく分からないときなどに限られるでしょう。


(次回は,『相続放棄が必要な範囲』について)


投稿者 川崎パシフィック法律事務所

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